ピーター・ウェンデル教授のクラスで顧問を務めるレイモンド氏は、テレビのコメンテーターだったこともある。アメリカのショービジネスの経験者。アップルやパンドラといった名だたる企業で、プレゼンのコーチをつとめる。風貌も、蝶ネクタイに、黒縁メガネといった風貌で、エンタテイナーが歩いているような感じである。自転車もピンク・パンサーに出てきそうな自転車に乗っている。
(レイモンド氏)
冬のある日のこと。
私は、レイモンド氏と、スタンフォード大学の近くのUniversity Cafeに座り、氏から、スタンフォードビジネスプランコンペティションに向けて、プレゼンの個人指導を受けていた。どんなスタートアップも、カネが必要だ。ところが、事業を始める前には、カネはなく、カネがないと事業が始められない。鶏と卵のような状況になるのが通常であり、これはネットではない、モノづくり系の会社の場合に特に顕著である。私は、初期の運転資金を、スタンフォードビジネスプランコンペティションで優勝して獲得しようと考えた。
レイモンド氏のコーチングは、以下のような感じだった。
「プレゼンで、最初からクライマックスはダメだよ。最初はローキーではじめる。ストーリーを語るんだ。君が南アフリカに行って、水不足と不毛な土地、そこで会った子供の話がいい。南アフリカから帰った後、調べてみると、70%の水の消費は、農業だということが分かった。問題を解決したいと思った。そして、次がクライマックス。次のような決め台詞を言うんだ。」
「『この問題を解決するために、わが社の科学者は、この問題を解決するために、数十年の研究を続けてきた。今日、その成果をはじめて皆さんにお見せするのに喜びを隠せない。』」
「台詞を言ったら、ポケットから吸収材を出して、見せて、技術の説明をするんだ。次は、マーケットの分析、チームの説明、財務諸表。最後は、締めだね。締めでは、最初に出てきた子供の話に戻ろう。『私は信じている。あなたが、協力して投資してくれれば、この子供の笑顔を、世界中で見られるようになる、と。』こんな感じさ。さぁ、もう一度最初からプレゼンしてごらん。」
レイモンド氏からコーチングを受けた後、今度は、学校のコミュニケーションの教授のシュラム教授にメールをして、もう一度、プレゼンを見てもらった。
「僕の授業をとったときから、随分成長したね。ただ、吸収材を出すとき、もう少し、大げさにジェスチャーしてごらん。ため息をついて、『こんな美しいものは見たことない』と言いながら、材料の説明を『さっ』とするんだ。例えば、『硬くて、水を自重の何倍も吸って、長持ちだ』とかね。」
「それから、競争相手とのチャートでは、体を大きく使いながら、『我々を本当に興奮させるのは、わが社の技術は、競争相手の16倍の性能があることである』と言ってごらん。」
「自分のチームの紹介では、自分の経歴を紹介した後、『日本で生まれた』と言ってごらん。君は日本人の発音だし、聴衆は日本人が良くこれだけプレゼンできる、と思っているから、必ずジョークを理解して、笑ってくれる。」
シュラム教授は、TEDでもスピーチをしたプレゼンテーションの権威であり、スタンフォードビジネススクールでは、コミュニケーションやプレゼンを教えている。彼のプレゼンは例えば、以下のビデオでも見れる。
昔、スタンフォードビジネススクールのSaloner校長とランチをしたとき、「我が校の戦略は、クラスのサイズが小さいことだ。だから、最高のコーチが、優秀な生徒の一人ひとりにつける。東海岸の学校には絶対真似出来ない。」と話していた。
その言葉のとおりだ。
1年生で入学当時、私のプレゼンは、ひどい内容で、クラスメートからも、プレゼンのときには、一緒のチームを組みたくないと軽蔑されるほどだった。
それが、最高のコーチ達から指導を受け、スタンフォードビジネスプランコンペティションで、2位という結果に終わった。
賞金も手に入れた。
終わった後、メンターで、デロイトの元パートナーが歩いてきて、「感動した。君の価値を信じる。引続き、君のメンターでいたい」と言ってくれた。
ともあれ、コンペティションの賞金で、会社をとりあえず始める運転資金が手に入った。
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