2017年1月20日金曜日

Yes We can

アメリカは東海岸でちょうど1月20日になった。

いよいよ新しい大統領が誕生する。

オバマについては、色々と批判があった。
・オバマケアのせいで、税金が高くなったし、医療機器のイノベーションが阻害された
・シリアが滅茶苦茶になってしまった
・シェール革命を阻害した
・シカゴの犯罪が悪化した
・ベンガジでアメリカ人が犠牲になった
・上院と下院の決議をとるのではなく、Executive Orderを多用して意思決定を押し通した
などなど。共和党のアメリカ人とご飯を食べに行くと、知識人層であるほど、食事の間、ずっと文句を言っていることも珍しくない。

トランプは、このようなアメリカの人の心をうまくつかんだのだろうというのがアメリカの新聞の論調だ。

ふたをあけてみると、ヒラリーはカリフォルニアで400万票トランプよりも票(Popular Votes)をとり、ニューヨークで170万票トランプよりも票を取得し、全体では、200万票トランプよりも票を取得したが、トランプに負けた。アメリカでは、州を制した候補者が、その州のもっているElectoral Votesをすべてとれるが、カリフォルニアは55票、ニューヨークは29票しかElectoral Votesをもっておらず、全体では538のElectoral Votesがあるので、人口が集中しているカリフォルニアとニューヨークで大勝しても、他の選挙区で負けてしまうと大統領になれない。

「皆オバマに嫌気がさしたから、方向転換でトランプに投票したのだろう。カリフォルニアとニューヨークだけが例外なんだ」というのが多くのアメリカの新聞(特にWSJなど共和党の新聞)の論調だ。


こうやって叩かれているオバマをみると、複雑な気持ちになる。



オバマが大統領になったのは2008年。私がアメリカに来た年だ。

スタンフォードビジネススクールのアプリケーションを書いているときに、「オバマになったらいいね」とアメリカ人のカウンセラー(デバリエ)に言われたのをよく覚えている。

オバマが大統領になった日は、スタンフォードの寮にいた。勝った瞬間に、学校中に学生達の拍手の音が鳴り響き、寮まで聞こえてきた。

新しい時代へのHopeだと思った。
はじめての黒人のアメリカの大統領。若くてカリスマのあるスピーチ。ノーベル平和賞の受賞。
ビジネススクールでは、オバマのようなリーダーシップをとる方法なども習った。
ビジネススクールでつらいとき、クラスメートはオバマのスピーチをきいて、気分を鼓舞していた。
ビジネススクールのコミュニケーションのクラスでは、「スピーチの力がオバマを大統領にした」と習い、スピーチを徹底的に練習した。
ビジネスプランコンペティションの前には、オバマのスピーチを何百回もみて、盛り上げ方、ストーリーのスピーチの入れ方、話し方を真似した。

Yes, We canと何度聞いたことか。

まさにロールモデルであり、理想の体現だった。


理想と現実は違うから、政治の現実がうまくないから、ということで、若い人のロールモデルと希望の象徴をあまり叩いてしまって良いのだろうか。

どんなに叩かれても、どんな現実を前にしても、オバマは自分の理想とPrincipleに忠実だった。




オバマの最後の文章は、下記のように終わっている。

When the arc of progress seems slow, remember: America is not the project of any one person. The single most powerful word in our democracy is the word "We". "We the People" "We shall overcome"

Yes, we can.





トランプが大統領になったのは、Back To The Futureの未来の世界の次の年だ。
昔映画をみていたときには、未来のその頃には車は空を飛べるのだろうか、とか考えていたが、結局、空を飛ばなかった。

トランプは未来の幕を開けられるのだろうか。

私は共和党でも民主党でもないので、良い人なら歓迎だ。

大統領が変わっても、一人では何も変えられないから変化はおきない、という人もいる。

だが、リンカーンやルーズベルトなど、例外もいる。今回は上院と下院の両方の過半数が共和党でもある。

トランプはエクソンモービルのCEOなど超大物を閣僚に起用した。
期待がもてるとともに、あまりの実力、経験と迫力に怖くもある。

エネルギーでも、金融でも大きな変化が起きるのではないだろうか。

オバマケアが新しい制度になって、医療機器のイノベーションの時代がくるのか、Federalのシェール油田が解禁されるのか。石油価格があがってシェール革命に火がつくのか。不動産以外の分野でGDPがもっと伸びるのか。

強いアメリカをつくろうと思ったら、注目するのはそういうところだろうか。

トランプを怖がる人も多い。2015年の秋に、将来を予言しようという話になって、Accidental Super Powerという本を起業家の友達が勧めてくれた。アメリカは大国なので、戦後の同盟国に依存する体制が崩れて、韓国や日本などの同盟国に対する安全保障の関係が崩れ、50年後に世界はカオスに陥る、という予言が書いてある本だ。当時、アメリカ国防省の幹部(Scientific Advisory Boardの議長)に夕食を食べながら、意見を聞いたところ、亀のような目で睨まれて、そういうことはない、と完全に否定されたが、今はどうなのだろうか。


友達の子供は、トランプが勝った日、雨上がり窓の外をみて、綺麗だね、と呟いていた。新しい時代は、どんな時代になるのだろうか。

今よりももっと平和な世界となって欲しい。

協調しあう世の中を、皆でつくれるのだろうか。

何があっても、希望を忘れず、未来を信じ続けたい。

Yes, we can.

2016年10月23日日曜日

Hard Things

Hard Thingsというシリコンバレーでは有名なベン・ホロウィッツ氏が書いた本を読んでいる。もともとネットスケープの幹部で、その後、自分の会社で社長を経験した後、有名なベンチャーキャピタルファンドを創業した。日本語でも出ているようだ(こちらから買える)

濃い内容だが、以下の点が実践的で特に勉強になった。

1.ベン・ホロウィッツが、投資をする際にCEOを評価するときに特にみる3つの点

(1) Does CEO know what to do (right strategy/story, speed and quality of decision)
(2) Can CEO get the company to do what s/he knows
(3) Can CEO Get the desired results against objectives

(1)について、まず、CEOは、ストーリー・戦略を語れないといけない。これは、アマゾンのジェフ・ベゾスが1977年に投資家にあてて出したレターが参考になる。この会社の存在価値はなぜか、というストーリーを明確に語れないと、従業員の士気もあがらないし、投資家や顧客もついてこない。また、(1)について、CEOの意思決定のスピードとクオリティを評価する。

(2)について、リーダーシップのスキル(後記)、正しい人材を正しい場所に配置し、社内で情報が十分に共有される環境をつくり、世界一のチームをつくり、常にチームが世界一かをチェックする能力があるかをチェックする。具体的には、例えば、従業員がミッションに貢献し、仕事を達成する環境をつくっているか、それとも、社内政治ばかりしているか。ネットフリックスが出しreference guide to freedom and responsibility cultureに具体例が書いてある。

(3)について、目標となる数字を示せるか。

 2.リーダーシップの条件
 
ベン・ホロウィッツは、リーダーを3つのカテゴリーに分ける。

スティーブ・ジョブズ型:ビジョンを明確に語ることで人がついてくるタイプ
ビル・キャンプベル型:正しい野心をもっているタイプ
アンディ・グローブ型: 正しいマネジメント能力をもっているタイプ

1番目のタイプについては、例えば、倒産寸前のアップルでも従業員はジョブズのビジョンについていった。

2番目のタイプについて、ビル・キャンプベルというのは、San Francisco 49ersというフットボールのチームを弱小から最強にのしあげた伝説のコーチ。その後、Go CorporationというノートパソコンのかわりにIPADみたいな製品(ただし指ではなくペンを使う)を売ろうという会社のCEOになり、従業員が最高だと感じる会社をつくったが、市場にプロダクトがフィットするタイミングがあわず、世紀の大失敗をする。しかし、Go Corporationに大金を投資した投資家達は、ビル・キャンプベルと色々とビジネスをする。「正しい野心をもっているタイプ」というのは、会社を私物として扱うのではなく、会社のために経営をする人のこと。アメリカでは実は悲しいことに珍しいのだが、これは、ポジションが上がれば上がるほど、人は権力の虜になるからだろう。ベン・ホロウィッツは、これは生まれながらの才能で学べるものではない、と書くが、このスキルをみにつける本は色々と出ており、例えば、Ten Laws of TrustというJoel Petersenというジェット・ブルー社の会長が書いた本には、このタイプになるための方法が色々と書いてある。また別の機会に紹介したいと思う。

3番目のタイプについては、アンディ・グローブは、High Output Managementという有名な本で、正しいマネージャーになる方法を書いており、ベン・ホロウィッツは、このことを言っている。この本については別の機会に紹介したいと思う。




2016年10月20日木曜日

クラスメートで成功した人達

卒業をして5年も経つと、色々と成功する人達が出てくる。

最近卒業生で南カリフォルニアに住んでいるクラスメート(現在はベンチャーキャピタル)とランチをしたときに、「来週はSo-FiのFounderを励ます会に出席するためにシリコンバレーに行くんだ」という。

同級生が立ち上げた会社のSoFi。MBAの留学生に、卒業生がローンを貸し付ける会社としてはじまったと記憶している。例えば、スタンフォードMBAを卒業してローンを返せない人は殆どいない。しかし、例えば、学生ローンの殆どは、どこの学校や専攻であろうが、それほどローンの利率に差が出ず、実際にデフォルトがおきる確率を反映していない・・・そこでこの問題を、解決しよう、というアイディアだったと思う。卒業生は、在学生と仲よくなりたいので、そういうインセンティブもあるという話だったと思う。

在学中は、何百もアイディアが飛び交っている(なので切り捨てないといけない)ので、こんなアイディア、どこにストラテジックインフレクションポイントがあるんだ、と切り捨てて考えていた。

しかし、5年間で彼らの会社の企業価値は、約3500億円。まだ起業した人達が会社を運営しているから、既にシリコンバレーの超成功者の仲間入りだ。

あのときに一緒に起業していればどうなったかなぁ、と思っているクラスメートは何人もいるだろう。まさにコロンブスの卵である。

2016年1月17日日曜日

人生の意味


スタンフォードビジネススクールのセカンドラウンドの出願の締切が過ぎた。サードラウンドで出願する人は稀なので、殆どの残りの受験生は、この秋か来年の1月に受験することになると思う。

 

そこで、難しくて評判の出願エッセイ「What matters most to you and why?」について色々と考えてみたい。

 

合格するには、このエッセイを上手に書けることが必須となる。なぜだろうか。実は、これは学校の戦略の根幹とかかわっている。

 

スタンフォードビジネススクールも、別に教育をボランティアでしているわけではなく、ビジネスなので、当然、お金を儲けようと考えている。ビジネスを教える学校だけに、その考え方はイノベーティブである。すなわち、学校では、成功した卒業生が、「スタンフォードビジネススクールから卒業したから、成功した」と思い、大量(多い人では100億円以上)の寄付をしてくれることで儲けることを期待している。

 

上記の目標を達成するためには、学校としては、以下が必要となる

・将来、卒業した後に、「一部」の学生が大成功する(全員ではない)

・卒業生の高い愛校心

・卒業生が人生にとって一番大切なことが何か分かっていること(最後の点については、難しいと思いますので、後で説明します)

 

一点目についてだが、よく、「シリコンバレーのベンチャーキャピタルは、一握り(10件に1件程度)の、リターンが数十倍以上の投資で儲けている。投資リターンが2、3倍にしかならなかったような投資は、ファンドの成功に寄与していない。この原則が分かっているので、リスクの高い投資をすることも出来る」という議論を聞いたことがあると思うが、これと同じ考え方である。

 

さて、それでは、学校としては、「一部」の卒業生が大成功するために、どのような受験生を合格させれば良いのだろうか。

 

スタンフォードビジネススクールに在学中に、インテルの元CEOのアンディ・グロー授業を取る機会に恵まれた。今では古典となった有名な著書「High Output Management」で、人が大きな結果を出すためには、「能力」と「モチベーション」の二つが必要であると述べている。

 

スタンフォードビジネススクールは、「能力」は、学校で教えられると考えている。最高の先生に高い報酬を払って、来てもらうのだ。カリフォルニアの天気は最高だし、校舎は綺麗。まわりはシリコンバレーで研究材料も豊富なので、教授が「スタンフォード大学に転職したい」と思う動機は高い。そして、学生が先生を採点するシステムを採用することで、良い先生ばかりが学校に残るように工夫している。

 

では、「モチベーション」はどうだろうか。ここで注意する必要があるのが、上記の学校の戦略にそって考えてみると、この場合の「モチベーション」とは、単に「自分の能力や結果を高めたい」という「モチベーション」だけでなく、「リスクをとることを厭わない」モチベーションであることに注意する必要がある。すなわち、学校の戦略は、以下のような仮説を前提としているのである。

 

仮説:

·         受験生をAグループとBグループの二つのプールに分ける

·         AグループとBグループの受験生の能力は、同じと考えられるとする

·         Aグループの各受験生のリスク選好度は、Bグループの各受験生のリスク選好度よりも高いものとする

·         このとき、Aグループの受験生ばかりを合格させた方が、期待収益は、Bグループの受験生ばかりを合格させるよりも、大きい。また、Aグループの全体収益が、結果として大幅に少なくなるリスクは極めて小さい。


上記の仮説は、直観的には、以下のようにその合理性を説明できる。

1.    統計学上の説明:Aグループの各個人がとるリスクについて、そのリスク間の相関関係が低ければ(すなわちAグループの合格者のDiversificationが大きければ)、Aグループから十分な数の合格者を出すことで、統計学上、(分散できるリスクは消滅するので)リスクは最小化される。なお、(実はこの前提はすべての卒業生には成り立たないのだが)卒業生は、リターン(期待収益)にみあわないリスクをとらないことを前提におくことが出来るのであれば、リスク選好度が高いAグループの方が、リスク選好度の低いBグループよりも、期待収益は大きくなる。

2.    教育学上の説明:教育学上、リスクをとる程、学習が進むとされているので、現時点でAグループとBグループの能力が同じでも、10年後にはAグループの能力がBグループの能力に勝っている、という仮説がたてられる(”The fastest way to succeed,” IBM’s Thomas Watson, Sr., once said, “is to double your failure rate.”Richard FarsonRalph Keyesのハーバードビジネスレビューの論文”The Failure-Tolerant Leader”に記載されています)

 

さて、それでは、学校は、「高い能力を取得したい」とか「リスクをとりたい」といった「モチベーションを高める」ことは出来るのだろうか。

 

そもそも、「モチベーション」は、どのように高めるのか。アンディ・グローブの「High Output Management」は、製造工場のアウトプットを高めるための様々なモデルを、製造工場だけではなく、ビジネスに応用することに多言する本である。この本の中では、人の「モチベーション」は、アブラハム・マズローのモデルに従うとしている。そして、著書中に、ハーバードビジネススクールの学生のチャックが、マズローのモデルに従って、どのようにモチベーションが高められたかどうかという説明が加えられている。マズローのモデルでは、モチベーションは、5段階のステップを踏む。1段階目は、Physiologicalであり、衣服や食べ物が得られるかどうかというステップ。2段階目は、Safety/Securityであり、(例えば健康保険を持っているかどうかといった)身の安全を確保できるかどうかというステップ。3段階目は、共通の目的・嗜好・性質をもった人々とのかかわり(Social/Affiliation)。4段階目は、褒められたり認められたりすることによるEsteem/Recognition5段階目は、例えばアスリートやバイオリニストが黙々と練習を繰り返して能力を上昇させるSelf-Actualization。アンディグローブは、Self-Actualizationに到達することで、モチベーションがリミットレスになる、と説明する。そして、ハーバードビジネススクールの学生チャックが、例として、登場する。チャックは、最初、ハーバードビジネススクールの激しい競争の中で、生き残れるかどうかという一段階目Physiologicalにいる。その後、皆が同じ状況にいる気が付き、勉強会のグループをつくり、二段階目Safety/Securityに移行する。そのうち、クラスがグループとしてカルチャーをもつようになり、チャックは、三段階目Social/Affiliationに移行する、というのである。スターウォーズにも登場したハーバードの卒業生のナタリー・ポートマンやハーバードのAmy Cuddy教授も、同じような話を以下のビデオでしているので、おそらく本当にそういう環境なのかもしれない。

 


 

 

さて、ライバル校のハーバードビジネススクールを「工場」と批判するスタンフォードビジネススクールでは、グローブ氏の解釈するマルローのモデルは、第一学期を除いて、成立していない(ただし、これはクラスの中だけの話であり、マルローのモデルを経営のツールとして如何にして使用するかどうかということ「も」教えるクラスはある。Managing and Building Sales Enterpriseという超人気クラスである。このクラスは色々なことを教え、グローブ氏の解釈するマルローのメソッドについては、「各セールス担当者の営業成績は公開することで、各人のモチベーションがあがるので、公開すべきである」と先生が授業中に一言述べるだけであり、別段、マルローのモデルを教えるクラスというわけではない)。スタンフォードビジネススクールでは、第一学期では、ほぼ全員退学しないかどうか必死なので、マルローのモデルが成立する。第二学期以降は、ほぼ全員が退学しないことが分かる。

 

二学期以降は、スタンフォードビジネススクールの学生は、「自分の人生の著者となり意義深い人生を送るためには、どうしたら良いのか」と考え始める。そして、人生の意義というのは、人それぞれが人生の著者として選択するものであり、グローブ氏のいうアウトプットに注力するのは、(工場では大事であっても)人生の生き方としては無駄である、と考えるようになる。グローブ氏のモデルとは異なり、このモデルでは、自分にとって意義深いことをしている時間が、最もモチベーションが高い時間ということになる。モチベーションとは、Fulfillmentによって与えられるものであり、人生は、多様なFulfillmentをもたらす価値観を理解したうえで、それぞれの価値観に費やす時間を、人生の著者としてバランスをとる場である、という考え方となる。ここでは、Fulfillment及び(時間の配分の)バランスが重要となり、これを達成するためのプロセスが重要となる。グローブ氏の解釈するマルローモデルでは、バイオリニストやアスリートが結果(Achievement)を出すことに注力しているのと対照的である。

 

グローブ氏の本に登場するハーバードビジネススクールの学生のチャックと比較するため、スタンフォードビジネススクールのクラスメートのダレンを例に取ろう。ダレンは、米国の非公開企業で最大の企業の会長の長男。在学中に、潰れ掛けの医療器具の会社の社長に就任し、会社の立ち直しに注力することに生きがいを感じるようになる。世間でいう「成功」を度外視したダレンは、ついに、超人気授業について、授業のすべて及び試験までを欠席した。彼は、当然、当該授業で「不可」がつくだろうと予想していたところ、巨大企業の会長の息子なので「不可」がとれなかったと(自分ではなく自分の家が評価されていることが分かったので)嘆いていた。同じような話が、クラスメートのプージャがニューヨークタイムズで紹介された際にも載っていた(こちら)。上記はビジネスの例だが、実は、殆どの学生は、クラスメートとの深いつながりを重視し、Touchy Feelyという他人との感情のやり取りばかりをする授業(授業中に多くの学生が泣いてしまう)が最人気授業である。

 

アンディ・グローブの解釈するマルローモデルの最大の問題点は、人間を、Self-Interestedな存在として捉えている資本主義の価値観にある。ハーバードビジネススクールを「資本主義の士官学校」と呼んだ方がいらっしゃるが、実は、スタンフォードビジネススクールは、資本主義の士官学校ではない。

 

これは、人生で最も大切なものは、Self-Interestだけな人には、手に入らないからである(と少なくとも私は思う)。だから、What matters most to youという質問に、Moneyと回答したら、どんなに上手にエッセイを書いても、合格しないだろう。お金を生み出すだけのロボットはクラスメートにいても学校のカルチャーにフィットしないからである(「どのような組織であっても、カルチャーにフィットする人のみを採用するべきである」と一学期で習った)。

 

シュバイツァーは、以下の名言を残した。「The only really happy people are those who have learned how to serve」(本当に幸せなのは、他の人にどのようにして与えるのか、ということを学んだ人だけである)。他の人に何かをしてあげたとき、幸せ、という感情を享受できる、とシュバイツァーは述べているのである。幸せ、という感情をもっているとき、人は、ロボット(存在しているだけ・空虚)ではなく、本当に生きており、満たされている存在となる。

 

Touchy Feelyが超人気授業なのは、他の人と感情をシェアしている瞬間が、自分が生きている、と実感できる瞬間だからである。もし、ある人に感情がなければ、工場で製品は生み出せても、生きている、と実感できないだろう。このような人生は空虚であり、存在しているだけである。デカプリオ主演の映画のWolf of Wall Streetをみたことがあるだろうか。主人公は、アンディ・グローブの解釈するマルローのレベル5の段階で、突き動かされたように進んでいく。派手な人生だが、空虚である。工場でお金を生み出し、そしてその金を(セレブを呼んだプールパーティなどで)消費するマシーン。どんなに突き動かされたように進んでも、進んでも、決して満たされることはない。

 

Fulfillmentについて、私のエッセイ合格ガイドブック(過去のブログを参照)と別の切り口で説明すると、以下のように考えられるのではないだろうか。

・自分の人生の中心として何をすえるのか。すなわち、何に時間を使い、プライオリティをおくのか。例えば、家族なのか、仕事なのか(クラスなのか、起業なのか)。

・どんな人として生きていきたいのか。(何をするのか、ではなく、どういう人なのか、ということ。具体的には、例えば、正直なのか、約束を守るのか、といったことである。別の例では、Wolf of Wall Streetに出てくるような浪費家なのか、それとも、森鴎外の小説『高瀬舟』に登場する喜助のように「足ることを知っている」のか)

・他の人に何をしてあげたいのか。自分に与えられているもの(才能など)のうち、どれを使って、他の人に貢献するのか。

・他の人とのつながりについて、どのような人とつながっているのか、何をコミットするのか、他の人のために何を犠牲にするのか。なお、スタンフォードビジネススクールでは、他の人との関係について、5段階で考える。一番低い次元は、挨拶するだけの関係。二番目の次元は、それよりも少し長い会話。三番目の次元は、問題の解決や分析に関する会話(仕事の会話など)。四番目の次元は、感情のシェア。一番高い次元は、お互いの関係に関する感情のシェア(例:あなたを大切に思っている、と言及したり、最も仲良くなりたい、と手紙を書く)。詳しくはこちら

 

与えられる側なのか、与える側なのか。マルローのいうRecognitionが欲しい、というのは、与えられる側である。しかし、シュバイツァーが医療を与えるとき、見返りがなければ不幸せだろうか。親が赤ん坊に食べ物を与えるとき、見返りがなければ幸せになれないだろうか。

資本主義・経済学では、「幸せ」でさえ、金銭価値に換算できるので、人間はSelf Interestedだというモデルは成立するとする。すなわち、シュバイツァーが医療を与えるとき、親がミルクを与えるとき、他人が幸せになったのをみて、自分も幸せになる(ここまでの命題は正だろう)から、したがって、そもそも、自分が幸せになるために子供にミルクをあげたのである(この命題の成否は否だと思う)と説明することになる。これは間違っていると思う。シュバイツァーは、そもそも(自分が幸せになりたいという)見返りを求めずに医療を与えるから、だから、幸せになるのである。まずSelf Interestedを否定する境地に至った人が、本当に他人のためにサービスを提供する際の喜びと、自分のことしか考えていない人が他人のためにサービスを提供する際の喜びとは、比較にならないのである。
 

ところで、グローブ氏の例に出てくるバイオリニストや(特に個人競技種目の)アスリートは、仕事において、人生の意義を持てないのか、という疑問が出てくる。それは常識に反する。確かに、子供の音楽家やアスリートには機械のように親やコーチに言われることに従って生きている子供もおり、この子供は、本当に生きているという実感を感じる機会は少ないかもしれない。また、大人の音楽家やアスリートには、お金のために仕事をしている人もおり、やはり、人生の充足を感じる機会は少ないだろう。しかし、音楽家やアスリートには、多く、人生の充足を感じている方がいる。例えば、こちらは顔を見れば明らかだろう。

 





これは、次のように考えられる。上のリストをみてみよう。例えば、「どんな人として生きていきたいのか」という問いに対して、上記のビデオのバイオリニストは、(作曲家に対して)「誠実な」人であろう。また、他人に対する関係という意味では、第二次世界大戦中に、ナチスの進行による空襲警報中に、観客に対するコミットメントを果たすために、演奏をし続けたバイオリニストの話が残っている。

 

さて、このようにして一生懸命自分の人生の意義について考え、自分の人生の著者になった人は、それに従って生きていくことこそが、「成功」だと思うようになる。世間(materialistic world)がいうお金が成功だとは思わないので、お金を損するかもしれないようなリスクをとることが出来るようになる。(そして、人生の意義は人それぞれなので、学校のポートフォリオとしてみると、卒業生がそれぞれとるリスクの間の相関関係が低くなり、卒業生個人個人に特有の分散可能なリスクが消滅する可能性が高くなる)
 

さて、この投稿の一番はじめのところで、スタンフォードビジネススクールの「成功者から寄付を集める」というビジネスモデルが成立するためには、合格者が、「何が自分にとって一番大切か、深く考えている必要がある」と述べた。そして、その理由を後で説明すると述べた。

 

Wolf of Wall Streetの主人公を思い出して欲しい。大金持ちでも、自分の人生の意義が分かっていないので、いつも満たされていない。満たされないので、更に金に走る。こういう人は、寄付をせず、自分のために金を使う。

 

何が自分にとって一番大切なのか、深く考えた人は、他の人に与えることで喜びを受けられると分かっている人である。次の世代のために寄付をし、皆から尊敬され、感謝されるだろう。

 

スタンフォードビジネススクールでは、戦略は、目的とそれを達成するための方法が、Congruent(有機的に結合していること)でないならないと習う。一部の成功者から多額の寄付を集めるという目的。寄付金で優秀な教授を集め、最高の授業の提供を目指す。自分の人生の意義を分かっている人を合格させ、(人生の意義が分かっている人はモチベーションが高く、金銭面でのリスクを取ることを厭わないので)リスクをとるようにチャレンジ精神の空気を吸わせる(空気を吸わせるには、周りの人がチャレンジしていれば良い)。本当に人生の意義を考えた人は、与えることの喜びを知っているので、寄付を厭わない。そして、寄付だけではなく、上記の戦略の結果として、多数の本当に幸せな卒業生を輩出するのであれば、それはそれは素晴らしいことであろう。
 

なぜ、What matters most to you?のエッセイが合格に必要か、エッセイを書く際に何を考えるべきか、お分かりになられただろうか。

 

2015年7月28日火曜日

スタンフォードMBAのインフォメーションセッションで考えたこと(スタンフォードのカルチャーの本質)


「それまで私は、『見えない』ということにとらわれるあまり、その人がその人らしく生きていくということに気が回りませんでした。」
(辻井いつ子、『今日の風、なに色?―全盲で生まれたわが子が「天才少年ピアニスト」と呼ばれるまで』より


スタンフォードGSBのインフォメーションセッションがあったので、昨日、今日と卒業生として参加してきた。



学校の魅力を伝えるのって難しい、というのが参加した感想だった。

後ろの方の席に座って聞いていると、Global ExperienceとかInnovationとか、一つ一つの学校側の売り文句について、私の脳裏では、過去の素晴らしい経験がよみがえる。目を閉じると、その時の状況が鮮明に思い浮かび、穏やかな気持ちになってくる。しかし、我々が実際に経験した毎日の感動を、プレゼンテーションで伝えるのは難しいだろう。私が感傷に浸っているのに対して、参加者の受験生はExcitedしているというよりは、どちらかというと、緊張して真剣な面持ちだったような気がした。

「カルチャーについて、説明するのって難しいのよね。」といいながら、アドミッションオフィスが、Collaborativeなカルチャーの説明をされた。例として挙げられたのは、二人のMBA生が、一つしかない就職先について、競争するかわりに、戦略を練って、ポストを二つに増やしてもらい、二人とも採用された、という話だった。

たしかに、皆がリスクをとり、リスクをとっている人達の間で、助け合うカルチャーがあり、これが他の学校と一線を画する場合があるというのは事実だ。

しかし、本質ではないのではないかと思う。

学生の多くが、自分の人生の意義について考え、自分自身の人生の著者となって、それを実行しているというのは、学校のカルチャーにならないのだろうか。このような哲学的な側面こそ、本当の学校のカルチャーの本質であると思う。Collaborativeなカルチャーは、このような本質から派生しただけであり、表層に過ぎない。

もっと分かりやすくいうと、自分らしく生きるということ。

例えば、私は、ビジネススクールに入ってから、何か月も、ずっと、気を張る状態が続いていた。「本当にこの集団の中でやっていけるのか」「認めてもらえず、輪の中に入っていけなかったらどうするのか」といったことを気にしていた。なので、人一倍予習をしっかりし、睡眠時間を削って、授業中に気の利いた発言するように心がけた。社交の場にも出来るだけ出席した。社交の場では、何か印象に残ることを言って貢献しよう、と気をもみ続けた。気の利いたことがいえず、会話が途絶えてしまうと、自分の実力に失望した。要するに、日本でいう優等生を演じ続けた。

ふとした瞬間に、このことの問題に気が付いた。

人生で最も大切なことの一つに、気持ちと気持ちがつながる、ということがあると思う。もし、1000億円儲けたとしても、世界をかえるGoogleをつくれたとしても、気持ちと気持ちがつながる瞬間がないのであれば、その人の人生は、生きているとは言えず、単に存在しているだけである。

いつも気が張っていて、結果を出すことにフォーカスしていると、なかなか気持ちと気持ちがつながる関係にはならない。ビジネススクールで、挑戦して挑戦して挑戦し続けて、それでもあきらめずに挑戦をし続けた。その結果として、気持ちと気持ちを伝え合うことを大切にする生き方の大切さに気が付いた。

気持ちと気持ちを伝え合うことを大切にすることに集中するようになってから、「認めてもらえなかったらどうしよう」「本当にやっていけるのか」という気持ちがなくなった。クラスメートとの間で会話が途絶えてしまうこともなくなった。

自分らしく生きるということ。この結果、世間の人が定義する「成功」とか「失敗」とかいった指標は、人生にとって重要でなくなる。世間でいう「成功」という指標が重要でなくなる結果として、他人と競争する必要がなくなり、Collaborativeなカルチャーがうまれる。世間でいう「失敗」という指標が重要でなくなる結果として、Risk Takingなカルチャーがうまれる。また、自分らしく生きるため、他人の目を気にしないから、他人の意見を安易に信じて、自分の信念が左右されるということがなくなる。これは、実は、世界を変える人の条件である(こちら↓)




スタンフォードビジネススクールでは、学生に自分らしく生きてもらい、それによって、意義深い人生を送って欲しいと考えている。

この結果、
「あなたにとって一番大切なのは何ですか」
というエッセイが出題される。

よく、「ビジネススクールで、自分を再発見できた」とか「本当の自分を知ることができた」という人がいる。

確かにそういう一面はあるのだが、自分の人生で一番大切なものは、自分で決定するものである、という点を見誤ってはならないと思う。

「自分が誰か」とか「自分の人生で一番大切なものが何か」という問いに対する回答は、算数の問題のように回答が一意的に存在するものではない。回答を探すものではなく、自分で決定するものである。

仮に、読者が今の自分が大っ嫌いだったとする。この場合、大っ嫌いな自分が、本当の自分の姿なのだろうか(つまり、これをエッセイに書くのだろうか)。そうではなく、自分に新しい名前を付け直せるのかを考えるのである。そして、新しい名前を白い石の上に書き、机の上においておいたら、どうすれば、理想にそった人生を生きれるのか、ということを考えることによって、人生で一番大切なものが決まる。

死んで人生を振り返ったとき、どういう自分に出会いたいかを考えれば、理想の自分に出会えるだろう。

明日、地球が滅亡するとしたら、読者は何をしたいだろうか。

伝えられなかった思いを伝えるのか、
大事な人の傍でただ時間を過ごすのか、
困っている人を助けてあげたいのか、

ちなみに、映画、「最高の人生の見つけ方」では、

美しい大自然の中に骨を埋めたい、とか
したことがない経験をしてみたい、

といったことに重点をおいているようだ。

人間にとって本質的に意義があるものは、手と足の指で数えるほどしかない。その中で、何を選択し、どう優先順位をつけるのか考え始めたとき、自分の人生の著者になることができる。


インフォーメーションセッションに参加していた受験生が、「スタンフォードに留学して、あなたは何が変わりましたか」と質問した。

「自分の人生の著者になり、人生という作品をどのような色合いを組み合わせてつくっていきたいのか、考えるようになり、それに従って、行動を始めるようになった。私は人生、挑戦し続けたい。倒れても倒れても起き上がりたい。その中で、他の人と心が通じ合える瞬間を大切にしたい。そうすることで、色彩豊かな人生を送れると思うようになった」

自分だったら、そう応えたと思う。









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Posted by Viral Thread on Tuesday, January 6, 2015

2015年7月8日水曜日

ベンチャーについて

東京大学関連(知財のみの移転を含む)のベンチャーの時価総額が、1兆円を超えたということで話題になっている。
http://textream.yahoo.co.jp/message/1004587/4587/8/403

私は、MBAとMSをスタンフォード大学で取得したので、2010年と2011年の卒業ということになっている。

非公開の資料ベースだと、

2010年のMBA生360人ほどが、今までの5年間で、自分の創立したスタートアップで、「資金調達した額」(時価総額ではなく、時価総額よりも低い)の総額が、5000億円である。

また、2011年のMBA生360人ほどが、今までの4年間で、自分の創立したスタートアップで、資金調達した額が、4000億円である。

ちなみに、公開されているデータベースだと、あまり情報がないようで、以下のように、数倍ほど、金額が間違っている。
https://medium.com/pejmanmar/what-do-stanford-gsb-founders-look-like-b830ba95a1ba

なぜ数字が間違っているのかというと、資金調達の総額や、時価総額の総額といった数字、成功率(ヒット率)といった数字には、あまり意味がないと全員がかんがえているため、公開の場にはデータが出てこないのである。

グーグルのような本当に世界を変える会社をつくりたい、という一心で、かりに1000億円の会社を上場させたとしても、本当のゴールに向けたパスに過ぎない、と考えている人がマジョリティだ。

これをもって、スマートでないとか、夢見がち、と思う人もおり、よく批判される。

2015年5月17日日曜日

スタンフォード大学に合格する方法 「Know your audience」

"20 million people are starving; whatever their politics, they should be fed." (Clark Hoover, 31st President of the United States)(日本語訳「2000万人の人が、空腹なんだぞ。政治になんか構っていられるか。食べさせなくてはいけない」、クラーク・フーバー、第31代アメリカ大統領)

"Optimism for me isn't a passive expectation that things will get better; it's a conviction that we can make things better – that whatever suffering we see, no matter how bad it is, we can help people if we don't lose hope and we don't look away." (Bill Gates) (「どんな状況でも、どんな苦しみを見ても、どんなに酷い状況に見えても、逃げ出してはいけない。希望を捨てず、目を背けず、必ず勝てる、という強い意志の力をもつことが大切だ」、ビル・ゲイツ)



このブログも、数年前から、受験生の役に立つブログとして認知されてきたため、

「スタンフォードって、どういう学校なんですか。ウェブサイトからはわからないのですが。」

と受験生から質問されることがある。大学の出願書類で、エッセイを提出することが求められるのだが、エッセイを書くのにあたり、「know your audience」ということで、学校についてリサーチしていると、スタンフォードのウェブサイトを読んでいるうちに、どんな学校だかよくわからなくなるというのである。

スタンフォードの在校生に質問をしても、「変人がおおいよ」とか「シリコンバレーのイノベーションの空気を吸っているよ」とか「哲学者が多いよね」とか、思い思いの返事が返ってきて、なおさら、どんな学校か分からなくなる。

私もそうだった。

そこで、

スタンフォードは、どのような学校なのだろうか。

という疑問に単刀直入に応えることにしたい。

まず、別の学校の場合、どうだろうか。ハーバードMBAといえば、競争が激しく、大変優秀な人達という印象。ケロッグMBAは、チームワーク。バークレーは、西海岸特有の人柄の良い人達によるイノベーションの学校。ウォートンMBAとコロンビアMBAは、ファイナンス・分析に強く、成熟した人達の学校。MITはテクノロジー・イノベーションに強い。などなどと色々と各学校にはブランドやイメージがある。

スタンフォードの場合、そのカルチャーは、以下の写真に示されている。だから、出願書類を作成するときには、いつもこの写真を思い出して欲しい。受験生は、印刷して、机のうえに飾って欲しい。


スタンフォード大学の象徴ともいえるこの塔。スタンフォード大学という名前を聞いたことがある人なら、だれでも、一度は、写真で見たことがあるだろう。

しかし、この塔が、アメリカ第31代大統領のフーバーにちなんで、フーバー・タワー(フーバー塔)と呼ばれていることは、一般には余り知られていない。

フーバー大統領について、日本の世界史の授業では、大恐慌のときに、モラトリアム政策をとった大統領とぐらいしか教わらない。しかし、スタンフォード大学との関係では、以下の二つの逸話が重要である。

 9歳のときに孤児になり、叔父さんに育てられたフーバーは、スタンフォード大学に入学し、卒業後、第一世界大戦のさなかにあるベルギーに食べ物を届けようと決める。周囲の人間は、「戦争中の場所に食糧を届けるなんて、無茶だ」と反対したが、これを聞かず、1100万人の人を食べさせるために、1000億円を集めた。

さらに、レーニンによるロシア革命(1917年)のさなか、1921年にロシアで飢餓がおきると、周囲の人間は、共産主義が台頭しようとしている国家に食糧を渡すべきでないとしたが、「2000万人の人が、空腹なんだぞ。政治になんか構っていられるか。食べさせなくてはいけない」として、食糧を届けることを決めた。

イノベーションだけでは、世界は変えられない。まわりが何を言おうとも屈しない、強靭な意志の力があるかどうかが重要である。



司馬遼太郎の「坂の上の雲」で、日露戦争のとき、旅順を攻略するとき、何度も何度も、銃弾の前に突撃をするシーンが出てくる。

意志の力を間違った方向に使ってはいけない。

フーバーが、戦争中のベルギーやロシアに食べ物を届けるとき、意思の力だけではなく、ベルギー・ロシアの人達への温かい同情や、戦時下に食べ物を届けるロジスティックスを考え付く、深い洞察力・思想があったに違いない。


深い洞察力・思想、強い意志の力、温かい同情

が、スタンフォードのカルチャーだと思う。イノベーションは、これについてくるものとして位置づけられるのだと思う。

2015年5月16日土曜日

ついに透明マントが実現する日

スタンフォード大学では、最先端の情報を手に入れようと皆、水面下でアヒルのように足をバタバタさせている。私も情報を手に入れようと、私と同じ年の教授 Jennifer Dionneの量子力学の授業を受けていた(試験問題は残念ながら満足にとけなかったが、教授と友達になったので、よい成績をもらった)。教授の研究の一つは、屈折率が負となる究極のナノマテリアルを利用し、透明マントをつくりだすことである。これは以下のビデオで紹介されている。




色々調べてみると似たような研究をしている人が他にもいることが分かった。その詳細は、こちらのビデオが分かりやすい。



本当に透明マントをつくりだせるのであれば、投資家が群がってくるだろう。

透明マントが出来れば色々と可能性が広がる。

さて、もし、「この技術をあげよう」と言われたら、読者の方は、起業するだろうか(ひとめぼれで結婚してしまうだろうか)。

スティーブジョブズが、「情熱に従う」べきというスピーチを2005年にスタンフォード大学でした。しかし、情熱に従って生きていけるためには、情熱をもつ前に、分析をしないといけないと講義をするのは、スタンフォード大学のポール・ヨック教授である。起業をする前に、アイディアを100個考え、緻密な分析により、99のアイディアを捨て、残った一つに情熱をもたないといけないというのである。

色々と調べてみると、「まだ早いのでは」という結論にたどり着くのが、普通の人だと思う。タイミングが早すぎる場合には、アイディアをノートに書いて、覚えておく、というのが良いと思う。

2015年4月25日土曜日

Stanford MBAのリユニオンでのスピーチ

Stanford GSBでは、5年に一度、リユニオンが行われ、今年は4月30日から5月3日まで、私のクラスが集合する。そこで、5年間の出来事を8分間でスピーチするTalkというイベントがあり、8人のうちの一人に選ばれた。

振り返ってみれば、あっという間の5年間だった。



スタンフォードビジネススクールの特徴の一つに、各分野のエキスパートとの素晴らしい出会いの機会があることがあげられる。私の場合、ベルラボの科学者で、インド人のオマール(仮名)というかけがえのない友人が出来た。オマールと私は、ある日のこと、農作物の水の使用量を激減させ、砂漠を緑に変える素晴らしい技術を発見し、一緒に起業することになった。モース(仮称)という会社だ。


モースを起業する過程で、私は、親友を失ったが、人生の意義を再発見することが出来た。


親友と一緒に起業をするというのは、良い点も悪い点もあると思う。

オマールと私は、出会ってすぐに仲良くなり、毎日ビールを飲み、夢を語らいあい、コンピュータプログラムを書き、新しい技術をみつけてはアイディアを取り交わした。しかし、創業期のスタートアップの性質上、彼に給料が出せなかった。そのうちオマールは、「破産しそうなので、働くどころではなく、資金繰りと借金取りに追われている。会社のために時間はさけないが、このまま席はおいておきたい」と言ってきた。

投資家からは、彼を首にしなければ、会社のモラルが下がるから、追加の投資は入らないよ、と脅された。

毎日寝れない日が続き、アドバイザや友人、教授から助言を受けた末、決心がついた。一か月2万円という破格の家賃でオマールがモースのために探してきたラボ。そのラボに、彼と一緒にすわり、モースを辞めて欲しい、と決断を伝えた。

結果、オマールは、行方をくらまし、全く連絡がつかなくなってしまった。

あのときの決断には後悔している。困っている人に辞めてもらうべきではない。unpaid vacationをあげ、株のvestingをとめるのにとどめるべきだった。


また、共同創業者は、首にするべきではない、とのレッスンを学んだ。本当に困ってしまったときに、助け合えるのは、心を交し合った創業者同士だけだからだ。


「本当に困ってしまう」状態は、予期せずやってくる。


ある日のこと、モースの資金が底をつきかけたので、梃入れをし、投資を集めるために、プロの経営者を雇った。リン(仮称)という名前だった。誰でも聞いたことのある大手企業の最高責任者の一人だった。シリコンバレーの巨人だ。

シリコンバレーの巨人を雇うことには、代償も伴う。感謝祭の休暇中に帰省し、シリコンバレーに戻ってきた後、オフィス代わりに使用していた超大手弁護士事務所ドラゴンソンシーニ(仮称)に出社すると、受付で、「YIが10時35分出社しました」と記録をとられた。

何だろうと、オフィスに入ると、ドラゴンソンシーニの最高執行役のドナドナ(仮称)が、リンと一緒に微笑を携えながら座っていた。「今日をもって、即日づけで、あなたは首です」と告げられた。取締役会の半数の議決権は、私が掌握していたので、首には出来ない旨を告げ、この場は私が勝利をおさめた。

リンは、本当に強い相手だった。権力争いは、資金集めをする中、数か月間続き、オマールを失った私は孤独だった。

あのとき何故オマールに残ってもらわなかったのか、と何度も何度も悔やみ、眠れない日が続いた。

そうこうするうちに、モースには資金が無事に入り、モースは生きながらえることができた。

ある日のこと、奇妙なことがおきた。私からは何も言わないのに、はじめて会った黒人の青年が、「君が瓦礫の中で、立っているのが見えた」といってスケッチをかいて持ってきた。私が瓦礫の中に立ち、何か筒状の容器のようなものの中で、王冠をかぶっている姿が描いてあった。

奇遇なもので、私には、福島第一原発に放射性廃棄物を除去する製品を直接納入している(おそらく米国では唯一の)会社からラブコールが、かかっていた。

自分の人生にとって、何が一番大切なのか、良く考えてみた。自分の会社よりも、福島の方が大切ではないだろうか。自分の会社は、経験豊富なリンに任せた方が、うまくいくのではないか。

ビジネススクールに留学するとき、自分にとって何が一番大切か、エッセイを書かされる。エッセイには、「自分は、人生を目的をもって生きていきたい(I want my life to be purposeful)」と書いた。モースには、砂漠を緑化し、温暖化、食糧不足、水不足のすべてを解決するポテンシャルがあり、社員全員、その目標に向かって一丸となって働いていた。だが、トマトが育つのを待つのには時間がかかる。

色々と考えているうちに、私は、自分の人生は、船を、虹色の洋服を着て、漕いでいくようなものなのではないかと思うに至った。自分の人生が色彩豊かなものになって欲しい。トマトが育つのを待つ時間が惜しかった。毎日、新しい挑戦をし、社会の役に立っているという実感が欲しかった。

私は、会社の経営をリンに任せることにし、自分は、アメリカの技術を日本に導入し、福島と日本の復興に専念することにした。


日本経済は、私が小学生の頃にバブルが崩壊し、そのあと、上手くいっていない。経済が麻痺すると、苦しむ人がたくさん出てくる。正社員になれない人が増えると、社員教育の機会も減り、結果として、学校で得た素晴らしい教育も、時が経つにつれ、薄れ、いずれは無駄になってしまう。負のスパイラルがうまれる。

私は福島の問題を解決するとともに、日本の経済も回復させたいと思った。

日本の問題を、マクロレベルでみると、供給能力が需要を大幅に上回るため、金利をゼロまで下げても、投資や消費をしようという需要が生じないことにある。

「この道しかない」というアベノミクスは、インフレ(の期待)によって、「ゼロ金利でもだめなら、マイナス金利に」ということで、実質金利をマイナスにすることで、これを解決しようとするものだ。

「この道」ではない「あの道」はないだろうか。アップルがiPhone, iPodをうみだしたときには、新しい需要がうまれた。

日本では、原発がとまり、当時は30%ともいわれた電力供給がなくなってしまった。同時に円安で燃料の輸入費用も高い。また、様々な人の人生が影響を受けた。


福島の問題を解決する過程で、シリコンバレーでアントレプレナーとして戦い鍛えてきた経験をいかし、新しい需要をうみだすことが、自分の次のミッションだと思う。




***
以上の記載は、問題にならないように、一部、名称や事実関係を変えることで、フィクションとした。









2014年6月21日土曜日

スタンフォードで話題になるベンチャー企業(訂正版)


「スタンフォードビジネススクールの卒業生で一番優秀な学生は、起業する。その次に優秀な学生は、スタートアップに入る。」(スタンフォードビジネススクールの教授のグロースベック

1.優秀な卒業生は起業するのか?

このブログで、起業については、自分の経験を含めて随分紹介してきた。
日本では、起業というと、期待値(自分の儲け)が低い印象がある。
しかし、アメリカで起業すると、投資家からお金を集めた後は、従業員の誰よりも給料がもらえ、誰よりも株をもっていることになる。実は、期待値を計算すると、非常に割りが良い。投資家から数十億円くらい資金を集められれば、給料は、2500万円から3500万円くらい、株は、社長の地位を維持できれば、10%持っている存在となるのが通常である。会社が成功すれば一生遊んで暮らせるだろう。

銀行からの個人保証でリスクを負わなければならなくなる日本の中小企業の経営者よりも、ずっとリスク・リターンが良いのである。

失敗しても、優秀なら、別の会社に入れる。失敗しなくても、他のことに興味を持ったら、自分の会社の株を大量にもったまま別の人の会社に入ることも可能である。ブラックショールズの公式で、オプションの価値を計算するとき、ボラティリティ(リスク)を高く代入すると、オプションの価値が跳ね上がるが、「失敗しても別の会社に入れる」というオプションがある場合、リスクを極限にとることが、ブラックショールズの式上も、もっとも儲かるという結論に達するのである。

スタンフォードビジネススクールで、Grousbeckが、「一番優秀な卒業生は起業する」と言ったのには、理由があるのである。


 2.ほかの人の創業したスタートアップに入るのは、割りが良いのか?

起業をする良いアイディアが思い浮かばなかった場合、卒業後に、他の人の創業したスタートアップに入るのは、割りが良いのだろうか。

ビジネススクールを卒業して他の人のスタートアップに入った場合、投資がある程度入っている会社なら、年収は、1000万円から2000万円の間くらい、株は、0.1%以下くらいが相場だろう。投資を受ける前の会社であれば、投資を受けるまでは、給料はなしで、そのかわり、1%から7%くらいの株が貰えるだろう。

これは割りが良いのか。

例を見てみよう。

最近日本にも上陸したUber。アプリで、高級車を呼べるサービスだが、最近、1200億円を1.7兆円の時価総額で集めることに成功した。

時価総額は、企業の値段。日本で1.7兆円の値段のついている会社というと、例えば住友商事。
 


実は、Uberの創業は、2009年。
たった、5年間で、住友商事と同じだけの価値のある会社を作り出したということになる。



私がスタンフォードビジネススクールを卒業したのは、2010年6月。もし、この当時、Uberに入っていたとすると、創業者の資金のみが入っていた状態での入社となる。投資家が入る前ということだ。

ところで、この段階のUberを探すのは、難しかったのか。

私が卒業するころ、いろいろなパーティに呼ばれた。お酒を飲むので、自分では運転できず、タクシーを呼ぼうという話になり、その頃、盛んにUberが使われていた。「これはいいサービスだ」と得意げに友達が見せてくれたのを覚えている。外では、まだ話題になっていなくても、なぜかスタンフォードビジネススクールでは大きな話題になっているということは良くある。

実際に卒業と同時にUberに入ったスタンフォードビジネススクールのクラスメートもいる。

その友人が、いくら株式をもらったかは分からない。

ただし、スタンフォードビジネススクールを卒業していれば、Series Aの後の会社でも、0.1%から0.3%くらいは貰えるのが普通である。

そこで、仮に保守的に0.3%もらったとする。実際には、もっともっと貰っているだろう。つまり、上の表から、2000万円の0.3%である6万円に相当する株式を貰ったということになる。

5年後の現在、Uberの時価総額は、1.7兆円なので、2000万円から1.7兆円に時価総額が増えたということは、85,000倍になったということである。

ところで、時価総額が85,000倍になる過程で、Uberは投資を受けており、この投資を利用して、時価総額があがっている。その投資による株式の希薄化の影響について、検討すると、おそらく当初の株主は、3分の1程度に株式が希薄化している。


(公開情報をもとに作成。Anti Dilutionなどの特殊な条項がなく、従業員のストックオプション総数を保守的に20%と過程。従業員のストックオプションは、普通15%から20%程度。)

そうすると、彼女がもらった6万円の価値は、時価総額が85000倍となり、他方で希薄化で3分の1の持分となった(0.3%から0.1%に持分が減った)ため、現在は、6万円x85000/ 3 で、17億円程度の価値があることになる。

実際には、パフォーマンスをあげれば、毎年追加で株式を貰えるので、 彼女の株は、入社時よりももっと多いはず。

もう大金持ちだ。

彼女ほど優秀でなくとも、Series AでUberに入ることが出来ていれば、当時の時価総額は60億円だったから、 入社時にもらった株が、今は、100倍近い価値になっていることになる。入社時に数100万円分の株くらいは、くれるのが普通なので、やはり数億円以上の資産家になれる。


このように成功する会社は、必ずクラスメートの間でバズになっているので、自分で一から掘り起こす必要はない。2002年にスタンフォードに夏季留学したときには、Googleがクラスメートの間で大きなバズになっていて、コンピュータサイエンスの学生の友達のオランダ人(ガートという名前だった) は、私がヤフーで検索しているのをみて、やめろと言ってきた。

自分で一から掘り起こす必要はない(友達の噂話にのれる)、という意味で、グロースベックのいう二番目に優秀な学生がとる進路なのだろう。


ところで、5年間で、85000倍の時価総額となったUberも、日本進出には苦労しているらしい。
2012年くらいから日本進出の話があり、私のところにも、日本代表の話をもってきてくれる人もいた。
今年、2014年にようやく日本に進出できている。

同じく今年日本に上陸したYelpも、2012年くらいには、日本進出の話があり、こちらも代表の声がかかった。私には縁がなかったが、Yelpは、今年、ようやく日本に進出にしたらしい。

日本のマーケットは、なかなか分からない、ということなのだろうか。

(注:当初の記事については、Cap Tableを作成しないで記載したため、数字が誤っておりました。上記の記事は訂正済みです。)