2009年12月30日水曜日

Stanford MBAの教授は日本をどう見ているか

スタンフォードビジネススクールへの出願の追い上げの時期だ。
私も2年前のクリスマス頃の時期には、エッセイを書き直して書き直して過ごしていたことを覚えている。

そういう時期なので、Stanford GSBの教授が、
「日本についてどう見ているのか」
について書いてみたい。

スタンフォードビジネススクールの元Dean(学長)であるRobert Joss。
授業を取って以来、顔を覚えてもらい、自宅の豪邸にも呼ばれた。スタンフォードビジネススクールでは、教授が学生を家に呼び、学生が教授をコーヒーやランチに誘うなど、教授がapproachableなところに特徴がある。

彼が日本の朝日新聞のシンポジウムの討論会に出て帰ってきた後のこと。
朝日新聞が彼の発言をどうまとめたのか、「翻訳してくれ」と部屋に呼び出された。

私:「読んでみました。(冗談で)レピュテーションを下げるような発言はありませんでした。」
Bob:「笑。それよりも、Y.I.、日本にいったが、元気がなくてびっくりしたよ。アメリカは、不景気だけど、『自分たちならできる』という精神を忘れていないし、元気だぞ」
私:「日本は、起業家が社会的にまだまだ評価されていないと思います。青色LEDの発明者は、『日本で起業して失敗したら自殺しなくてはいけない』と演説したそうです。もっと、日本人の合格者を増やしていただけると嬉しいのですが。」
Bob:「日本のGDPが世界で2番であることを考えると、できれば3人よりは合格者を増やすべきだ。起業もいいけど、私は、日本の問題は、企業の組織のマネジメントにあると思う。」
Bob:「日本はモノづくりはうまい。しかし、チームとか、組織のカルチャーとかは、まだまだだと思う。例えば、会議で若い人達が下を向いて発言をしないのでは人材の無駄づかいだ。スタンフォードビジネススクールに、それを変えられる人に来て欲しい。」
Bob:「あと、日本のサービス産業は、世界のレベルと比べて低いよね。」

Bob Jossは、Deanの前には、ウェルズファーゴ銀行の幹部、オーストラリアで最大の銀行のCEOなどで働いた経歴を持つ。今は、シティバンクの取締役だ。

別の教授Edward Lazearからも同じようなコメントを受けた。
彼は、元大統領経済諮問委員会委員長だった。アメリカの大統領に対して経済のアドバイスをする人の中で、一番偉い人だ。

教授「日本の景気(注:失われた10年のことを指し、リーマンショックのことを指していない)は、随分前に回復している。日本政府が、銀行に対して打ち出した政策は、遅くはあったが、成功したんだ。リーマンショックのとき、私がアメリカ政府にいたときには、日本政府が当時打ち出した政策を真似したんだ。ただ、日本のように遅い段階でしたのではなく、物凄いスピードで実行したんだ。結果は素晴らしいと思う。アメリカの景気は随分前から上向きに回復してきているよ。」
教授「日本にとっての誤算は、中国をはじめとした他のアジアの国の台頭だ。彼らが、ものづくりの競争に入ってきた。これらの国に対して、これから日本がものづくりの競争に勝っていくのは、私にはどんどん厳しいと思う。サービス産業に移行すべきだろう」
教授「サービス産業に移行すれば、人材の流動性も進む。ものづくりのスキルよりもサービス産業のスキルの方が、industry specificじゃないからね。」

大統領アドバイザーだったほどの教授の授業をとれるのは本当に幸福なことだ。
しかし、サービス産業に移行すべきだというのはどういうことだろうか。

元インテル3代目CEOで「経営の神様」と呼ばれるアンディ・グローブ。
彼は、今でもスタンフォードビジネススクールで教鞭をとっている。

そんなアンディ・グローブの授業をとる機会に恵まれた。電気自動車とクリーンな石炭の分野で、どのような戦略行動(Strategic Action)をとるべきか、という授業だ。

彼が授業で強調した概念の一つが、ストラテジックインフレクションポイントという概念だ。(詳細は、インテル戦略転換を参照されたい)

これは、技術、競争、サプライヤーパワー、バイヤーパワー、Substituteなどが飛躍的に変化する(10X Forces)と、それが様々な変化を呼び、幾何級数的な変化を引き起こし、結果、従来通用した競争の方程式が、通用しなくなり、新たな競争の方程式に適用できた企業は生き残るが、適用できなかった企業は痛い目を見る、という概念だ。

良くあがる例が、チャップリンとウォルマート。技術の飛躍的な変化で、無声映画に対して、音声映画が可能となったとき、変化に適応せず、無声のパントマイムにこだわった役者達は痛い目を見た。また、ウォルマートが町にやってくると、「競争」に10X Forceが生じる。町の小さな店は、今までのやり方で競争するのではなく、例えば「文房具にフォーカスする」といったストラテジックな変化をする必要があるというのだ。

アンディ・グローブは、ストラテジック・インフレクション・ポイントの概念が国家のレベルでも通用すると考えていた(これをSelf-Similarity Across Scaleというらしい)。

「中国や韓国の台頭で『競争』に10X Forcesが生じ、Strategic Inflection Pointとなった。日本にとって競争の方程式が変わった」Edward Lazear教授はそのように考えたのかもしれない。

しかし、現実問題として、日本は、世界のほかの国と言葉とカルチャーが違うから、サービス産業での競争にはハンデがつきやすいのではないか。しかも、百歩譲って、サービス産業に移行するとしても、具体的には何なのか。

そう質問しようとしたとき、Lazear教授は、「記者会見があるからまたね」と去っていってしまった。

1 件のコメント:

Ikuo C. Hiraishi さんのコメント...

非常に示唆に富んだお話、ありがとうございます。

Y.I.さんのブログを読んで、僕は元BCGでネットイヤーグループの創業に関わった後、独立し、百年コンサルティングを創業した鈴木貴博氏の著書「会社のデスノート(朝日新聞出版)を思い出しました。

彼は著作の中でご自身が考案された「重サービス業」というコンセプトを提唱しています。

Suica, Edy等の資本投下&高度なオペレーションを必要とするサービス業を意味し、そのようなサービスや公共サービス、鉄道の運営ノウハウ等をハード&運営サービスをセットで海外に輸出するべきと主張しています(論じるまでもなく、軽サービス業では勝てないと)。

僕は彼のような高度な理解ではありませんでしたが、これからのベンチャー(もちろん業種によるし、何を目指すかにより異なります)は、クリーンテック等を含めて、10億単位の初期投資を行い、スケールメリットを追求するものでないと難しいだろうと思っていたので、とても腑に落ちる内容でした。

参考まで。

平石郁生
http://twitter.com/ikuoch
http://ameblo.jp/dreamvision/
http://www.dreamvision.co.jp/