2009年12月30日水曜日

Stanford MBAの学生の『憧れの職業』

「Y.I.、クライナーパーキンスって知っている?最近はじめて名前を聞いたよ~」

ベトナム人のクラスメートに言われて驚いた。まさかシリコンバレーの中心で、クライナーパーキンスを知らないスタンフォードビジネススクールの学生がいるとは。。。

「意外と知られていないのかな」
そう思って日本の友人に聞いてみると、意外と
「クライナーって何?」
という反応。

そこで、一度クライナーパーキンスについて、簡単に書いてみることにした。

シリコンバレーでクライナーパーキンスは知らない人がいないくらい有名な存在。
世界でトップのベンチャーキャピタルの一つだ。

そのトラックレコードを下にまとめてみた(クライナーパーキンスのパートナーJohn Doerrが2009年に公表したものをそのまま翻訳している。ただし、1ドル100円で換算)。

・Annual Revenue:10兆円
・時価総額:50兆円
・33年間で475件に投資。
・今までに173件がIPO。163件がM&AでExit。

日本の国家予算が85兆円くらいだと思われる。
Annual Revenueは、その約9分の1、時価総額はその半分以上。
33年間で475件に投資して、336件がIPO又はM&AでExitしているということは、少なく見積もっても、約70%がきちんとExitしていることになる。実際には、成功率はもっと高いはずだ(不況の中で好景気になるまでIPOを待っているポートフォリオや、まだ投資して間もない初期の段階にあるポートフォリオがあるだろう)。

John Doerrは、「自分の仕事は、投資家から投資された金額を10倍にして返すことだ。そして、今までは、それに成功してきた」と話す。

「自分のお金を10倍にしてくれる」のであれば、誰でもクライナーパーキンスにカネを入れたくなる。
しかし、クライナーパーキンスに投資するのは難しい。とても閉鎖的なコミュニティなのだ。会ってもらうのさえ難しい。日本の投資家で、「クライナーにカネを入れることができた」という例は聞いたことがない。『やっと会ってもらえた』と興奮する例はある。

クライナーは、創業初期の段階から、グーグル、アマゾン、AOL、コンパック、ジェネンテック、Intuit、サン・マイクロシステムズ、ネットスケープ、ロータスといったそうそうたる企業に投資して、育て上げてきた。

クライナーが投資をして育てた会社は、どうなったか。
例えば、1994年にクライナーのJohn Doerrは、ネットスケープに4億円を投資した。昔、スタンフォードビジネススクールのアンディ・グローブの授業中に、John Doerrが、ネットスケープに熱狂していたことは今でも語り継がれている。そのときアンディ・グローブは、「ネットスケープは、ネットの歴史で脚注くらいの存在になるだろう」と反対したそうだ。結局、ネットスケープは、4000億円で買収された。
グーグルに対する投資の際には、20%の株式を25億円で取得。その後、グーグルの時価総額は一時期10兆円をつけた。
アマゾンでも、投資額が55000%となったといわれている。

クライナーのチームには、アルゴア元副大統領、パウエル元国務長官といった政治家もいれば、サン・マイクロシステムズを創業時から一流企業に育て上げたCTOのBill Joyなどの技術家、オラクル(世界No2のソフトウェアの会社)の社長兼COO出身のRay Laneなどのビジネスマンもいる。

「クライナーパーキンスのパートナーにいつかなりたい」というのは、多くのスタンフォードビジネススクールの学生の普通の心情だ。クライナーのパートナーは、スタンフォードビジネススクールの学生にとっても憧れの職業なのだ。しかし、ビジネススクールを卒業してすぐには、会うことは出来てもパートナーにはなれない。卒業後に「1年くらいしたら辞めます。単なる経験として働いてみたい」と話せば、プリンシパルのレベルであれば、雇ってもらえる例がある。しかし、彼らがパートナーにのぼっていくことはないだろう。パートナーになるのは、アルゴアのようにずば抜けた人か、クライナーのポートフォリオで、(投資ではなく)マネジメントをした経験のあるアントレプレナーなのだ。横からパートナーになるのが通常だ。

それもあって、スタンフォードビジネススクールでは、「若くて元気のあるうちには、起業して苦労して、年をとって疲れたら、クライナーなどのベンチャーキャピタルで、投資をして、ポートフォリオを助ける」というキャリアパスを理想と考える学生が多い。

そんなクライナーも最近クリーンテックに対する投資をはじめた。
今ではクリーンテクノロジーで50のポートフォリオを持つ。
しかし、一見すると、苦戦しているように見えた。
・例えばポートフォリオのBloomenergyは、燃料電池の会社。しかし、秘密主義で有名だ。スタンフォードビジネススクールを出た従業員に対してさえ、情報をあかさなかった。こうした態度から、「秘密にするということは何もないのだろう。何かあれば情報を出すはずだ」という噂がスタンフォードで囁かれるようになった。さらに、「燃料電池って、随分前から『実現まであと10年』と言い続けられて来たけど、結局何10年たっても実現しないし、今でも『実現まであと10年』っていわれているよね」という声も出るようになってきた。
・AusraはSolar Thermalの会社。Solar Thermalというと格好良いが、要は、太陽光をレンズで集光して水を沸騰させ、その蒸気でタービンを回すという原理だ。1年位前に、マネジメントが、「今のままではコスト面で勝てない」と弱音を吐いたという噂がシリコンバレーで囁かれた。
・Fiskerはプラグインハイブリッドカーの会社だ。しかし、日本の自動車の大企業などと正面衝突するのだろうか。。。何か物凄いCompetitive Advantageがあるのであれば別だが、そういう情報は少なくともスタンフォードのレベルには入ってこない。「大丈夫なのかなぁ」という気持ちになってくる。
・また、バイオ燃料の会社に大量に投資をしている。しかし、スタンフォードのノーベル賞を受賞した教授は、バイオ燃料が、CO2排出量を減らすのは難しいという旨を熱弁していた。また、バイオ燃料の会社を一流にするのは200億円程度の投資が必要といわれており、Capital Intensiveだ。
・唯一、最近シリコンバレーでIPOの噂が囁かれるSilverSpringNetworksに対しては、創業初期に投資をすることができず、最近になってようやくカネを入れた。
また、クライナーのクリーンテクノロジーのポートフォリオでIPOした会社があるという話はあまり聞かない。

しかし、百聞は一見に如かず、実際に働いてみようということで、クライナーの会社で数ヶ月間くらい働いてみた。
もとサンマイクロシステムズのCTOであるBill Joyがリードインベスターの会社だ。
ステルスモードの会社なので、詳細は記載できないが、確かに凄い。
他の多くのベンチャーとはレベルが違った。
電池のコストが馬鹿げているほど安いのだ。
「もしかすると本当に世界を変えるかもしれない」と感じた。

さて、そんなクライナーパーキンスで、トップの投資家と言われているJohn Doerrの愛読書のリストと「スタートアップ成功マニュアル」を手に入れた。

まず、彼の愛読書は、以下のとおりだ。

Startup: A Silicon Valley Adventure Story

Monk and the Riddle: The Education of a Silicon Valley Entrepreneur (Harvard Business School press tip sheet)

Good to Great: Why Some Companies Make the Leap...And Others Don't

Banker To The Poor: Micro-Lending and the Battle Against World Poverty

The World Is Flat: A Brief History of the Twenty-first Century


Hot, Flat, and Crowded: Why We Need a Green Revolution-and How It Can Renew America

An Inconvenient Truth: The Planetary Emergency of Global Warming and What We Can Do About It

Our Choice: A Plan to Solve the Climate Crisis

そして、彼のスタートアップ成功マニュアルは、以下のとおりだ。

スタートアップ成功マニュアル

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