「『正しいアイディアで会社をスタートするべきだ』と考える起業家が多い。大きな間違いだ。正しいアイディアであり、かつ、皆が失敗すると考えているアイディアでスタートしなければ失敗する。皆が正しいと思ったときでは遅すぎるから。」(アンディ・ラクレフ)
グーグルへの投資などでシリコンバレーの歴史を作ってきたセコイア・キャピタル。その元パートナーのマーク・スティーブンスの個人資産は、フォーブズによれば、1000億円を超えるといわれます。
スタンフォードビジネススクールでは、彼と何度かランチをする機会があり、フェイスブックの創業者のマーク・ザッカバーグがセコイア・キャピタルにパジャマを着てプレゼンテーションに来たときの話をしてくれたり、私の創業した会社のアドバイスをしてくれたり、という感じだったのですが、ある日のこと、
「起業家に必要な能力の一つに将来を読むことがある。そのためには、隅っこを見る能力(ability to see corners)が必要である。」
と話してくれました。
彼の言葉の前半は簡単です。
将来を予測することで、競争相手に対して、先手をうつことが可能となり、例えば、ビジネススクール用語でいうfirst mover's advantageが得られます。
しかし、後半はどういうことなのでしょうか。
「隅っこを見ることで、将来を予測する」とは、どういうことなのでしょうか。
これについて、今回は、ベルリンの壁崩壊(!)を例にあげて考えたいと思います。
日本に出張中、とある日本の知識人に、「ベルリンの壁の崩壊って予想できた」と聞いてみたところ、「出来なかった」という返事が返ってきました。
しかし、同じことを、ドイツの東側にあるハンガリー(ドイツとの関係で「corner/隅」のような存在)の知識人に聞いたら、人によっては、「予想できた」という答えが返ってくると思います。
ハンガリーは、東側諸国で、中立国であるオーストリアに面しています。1989年、ブッシュ大統領は、ゴルバチョフが、ソ連を維持するために軍事力を使わないという情報を耳にして、「テストしてみよう」と思い、ハンガリーに対して工作をしかけ、ハンガリーとオーストリアの国境の有刺鉄線を除去させます。その後、ブッシュの工作は続き、ハンガリー政府は、東ドイツの人が、西側に移動するのを色々と助けるようになります(こちらに詳細)。この一連の動きが、ベルリンの壁崩壊につながったといわれています(こちら)。
ハンガリーという隅(コーナー)に着目した人は、ベルリンの壁の崩壊を予想できたかもしれません。
将来は、予測出来ないものではなく、予測が当たるか当たらないか、確率の問題となると言えると思います。
したがって、「将来は予測出来ない」と割り切ってしまうのも問題ですし、逆に、「自分の予測は絶対に当たる」と傲慢になるのも問題なのですが、実は、両者とも、リスクをとらない人の立場なのです。前者は、予測出来ないから、と思って、行動をしない人。後者は、予測出来るから、絶対に当たると思って、行動する人。リスクをとらない人の効用曲線は、以下のようになり、直線でありませんから、自分のリターンを最適化することが出来ないと考えられます。
情報化時代では、能力のある人の間では、情報の格差が減っていくと考えられますから、同じ能力のある人の間で、差をつけようと思った場合、もう一歩踏み込んだ戦略が必要となると考えられます。
リスクをとっていることを認識して、「賭けに出て、賭けに勝つ」ことで、自分自身の効用曲線を変更し、直線に近づけることができ、同じくらい優秀な人に対して、リターンの期待値をあげることが可能になると思います。
もっとも、これに対して、通常の人以上の情報があっても、利用できない人も残念ながら、存在します。例えば、2001年8月6日、9月11日よりも前に、CIAは、飛行機を利用した攻撃を予想していました(以下資料)。この情報は大統領に届けられましたが、結果は、ご存知のとおり、非常に残念なものでした。
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1 件のコメント:
初めまして。明けましておめでとうございます。いつもブログを興味深く拝見しています。
都内某企業で知財渉外をしています。
日本人はエッジのきいたものを色眼鏡で見がちなため、新しいサービスに食らいつきにくいのかなぁといつも思っています。もっともっと、リスクテイクを歓迎できる世の中になって、社会全体のサイクルを好循環にしていきたいですね。
これからも楽しみにしております。
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