2011年8月29日月曜日

Steve Jobsの退任

史上最高のテクノロジストとして著名なスティーブジョブズが、遂に退任することになった。




エコノミストは、「ジョブズがやめたからといって、ビル・ゲイツを失ったマイクロソフトのようなことにはならないだろう」と報道した。

果たしてそうだろうか。


シリコンバレーでは有名な話だが、
①新しいビジョンをもって会社を創業するCEO(ビジョナリーイノベーター)と、
②既に大きくなった会社をシステマチックにスケールアップするCEO(マネージャー)とでは、
まったく別のスキルを要求される。


そして、両方のスキルを持っている人は殆どいない。


大きくなったアップルで、iPod, iPhone, iPadを生み出してきた スティーブジョブズは、両方のスキルを持っている世にも珍しい人だった。


両方のスキルを持っている人の例を他にあげてみよう。




(mark leslie)

スタンフォードビジネススクールの教授になったマークレスリーは、会社の起業に二回失敗した。その後、ベリタスソフトウェアのCEOになった。今でこそ有名なベリタスだが、マークレスリーが入った当時は、つぶれかけの会社だった。

マークレスリーは、つぶれかけのベリタスにCEOとして入り、従業員の大半を首にした。株式の分割・併合で、既存株主をスクイーズアウトして追い出すことで、新しい経営陣がインセンティブを持って働ける仕組みをつくりだした。そして、営業マンを雇えば雇うほどお金が減ることに気がついたので、「しばらく何もしないで様子をみる」という決定をした。彼は、優秀な「マネージャー」だったのだ。

その後、ベリタスは、何度も新しいアイディア・ビジョン・イノベーションで、脱皮を繰り返し、全く別のプロダクトを売る完全に新しい会社に何度も何度も生まれ変わった。IPOの後には、ウォールストリートのアナリストから酷評をされた合併(M&A)を実施して、株価を半額以下に下げたが、その後、株価を何倍にもして、ウォールストリートが間違っていたことを証明した。マークレスリーは、優秀な「ビジョナリー・イノベーター」でもあったのだ。


ちなみに、両方のスキルを持っているマークレスリーが辞めた後、ベリタスはどうなっただろうか。ベリタスは、VMWareの買収に失敗した。買収しなかったのだ。シリコンバレーでは、ベリタスがVMWareを買収していれば、Googleに匹敵する会社になっただろうと噂されている。

両方のスキルを持っているCEOを失ったベリタスは、新しい脱皮に失敗したのだ。


マイクロソフトも、ビルゲイツが退任し、様々なストラテジックインフレクション(例:携帯)に乗り遅れた。



会社が1000億円の売上げを超え、大きくなった後に、更に脱皮を繰り返すことは難しい。アップルにこれが可能だったのは、両方のスキルをもつスティーブジョブズがいたからだ。アップルがiPhoneを出す直前に、スタンフォードビジネススクールは、「iPhoneが成功する可能性は低い」という論文を発表、アップルの社内でも、「電話ではなく、タブレットコンピュータに集中するべきだ」という意見が多かったという。



(若い頃のスティーブジョブズ。右。)

スティーブジョブズもマークレスリーも、起業家だ。若い頃に起業をして、その後、前回のブログで紹介したワニや鮫がうろつくシリコンバレーを生き残った(スティーブジョブズは二回首になったし、マークレスリーも二回失敗したが)。生き残ったので、会社を自分で大きくするという経験ができた。その過程で、自分自身を何度も脱皮させ、両方のスキルを人物になったのだ。

アップルの新しいCEOが両方のスキルを持っているかは分からない。しかし、その可能性は低いだろう。もし両方のスキルを持っていれば、雇われのCEOになるのではなく、自分の会社を作るだろう。それがシリコンバレー精神だ。

もっとも、それでも、アップルの快進撃はとまらないと思う。
携帯電話が、「小さなパソコン」になることは確実になった。
パソコンの歴史を携帯電話は踏襲するだろう。
その世の中の仕組みの中で、うまみを吸い続ける仕組みを作ったアップルの覇権は、もう一世代続くだろう。
それが、史上最高のテクノロジスト、スティーブジョブズが作り出したバリューだと思う。




2011年8月21日日曜日

憧れの人の真の姿はワニか鮫か

3年前、スタンフォードMBAのエッセイに私は以下のように書いた。

「日本には良い技術がたくさんある。東芝はフラッシュメモリーを発明した。ソニーにはアイポッドにつながるアイディアがあった。しかし、技術を世界で実現することにかけては、日本企業よりも、アップルが上だったように思う。私は、ベンチャーキャピタリストになって、日本の技術を世界に実現することに貢献したい。」

グーグル、アップル、シスコ、アマゾンなどなどアメリカの成功の歴史をつくってきたクライナーパーキンスやセコイアキャピタルなどのベンチャーキャピタル。

彼らに憧れていた。そして今でも。



起業後に、シリコンバレーの伝説のベンチャーキャピタルと呼ばれる人達にプレゼンテーションしまくり、投資も受けた。


そして学んだことがある。


彼らの多くは、シリコンバレーで、アリゲーター(ワニ)とかShark(鮫)と呼ばれている。



フェイスブックの創業者のマーク・ザッカバーが、セコイアにパジャマでプレゼンテーションをしたことは良く知られている。

これは本当の話だ。メディアがウソの報道をしたのではない。

マーク・ザッカバーが気が狂っていたわけでもない。

わざとやったのだ。

フェイスブックのショーン・パーカーには、セコイアから自分のうまみを吸い上げられてしまった悲しい過去があった。

そこで、マーク・ザッカバーに、「同じ間違いをするな」と囁きつつ、心の中でセコイアに復讐することを誓ったのだ。



アップルのスティーブ・ジョブズも、セコイアから投資を受けた。彼が会社を追い出されたときに失った株式を、もし、今も持っていたら。。。



ところで、私がセコイアからコンタクトされ、投資の話を受けたときには、パートナーから、「我々は創業者にフェアだよ」と言われた。

前の話と矛盾するようだが、セコイアはウソをついていない。

セコイアが投資家として入ることで、会社の株式の価値は、平均して10倍になる。

創業者は、株をたくさんもっているので、その恩恵を受ける。

全体のパイが増えるので、山分けをしても、創業者はメリットを受けるのだ。



私も何度も何度もポテンシャルな投資家と対立した。


最近、新しく従業員を雇おうとしたときの話。


ポテンシャルな投資家A(セコイアではないです):
「Y.I.、良いビジネスマンというのは、相手の気持ちを読み取り、ディールをクローズするためにはどしたら良いかを常に考えるものだ。あいつにはそれを感じない。あいつは、とにかくおしゃべり(chit chat)をして、自分の考えていることを単に説明するタイプだ。相手と関係を構築しようという気持ちも感じられない。洗練されてもいない。今までは●●というタイトルだったようだが、生まれながらにして、マーケティングのタイプだ。雇った方が良いと思うが、とりあえず、タイトルは、『acting ●●/ VP of Marketing』として、●●の肩書きについては、後で考え直した方が良いと思うよ。」と言われた。

ちなみに、acting というのは、この場合、temporaryと同じ意味で、あとで降格するという意味だ。


私は、このポテンシャルな投資家のいう「弱点」にはすべて反対だ。相手との関係構築もうまいし、洗練されているし、今までのレジュメをみると、一人で巨大な売上げをあげており、売込みに成功してきている。

私みたいな若造が、「あなたには、acting ●●というタイトルをあげよう」と発言した瞬間に、そっぽを向かれるだろう。


憧れの人とはいえ、パーフェクトではないのです。

2011年8月17日水曜日

ダイアモンドオンラインに載りました

スタンフォードGSBのアラムナイの投資家にプレゼンテーションをしようと連絡をすると、以下のURLが送られて来ました。


シリコンバレーで開催された、とあるビジネスプランコンペティションで優勝したときの記事のようです。


昔はビジネスプランコンペティションに出る前には、いつも何度も何度もプレゼンの練習しました。
日本人なので、練習しなくては、英語の出来だけで負けてしまうからです。
今となっては、毎日毎日ひたすらベンチャーキャピタルにプレゼンするのが仕事なので、練習するというよりは、いつでもプレゼンできる状態になっています。


そういう意味では、プレゼンテーションをする起業家は音楽家に似ているのかもしれません。
若いときには発表会の前に一生懸命練習します。
プロになると、ドボルザークの新世界とかであれば、スコアが全部頭に入っていて、リハーサルだけでも本番を完璧に、こなせるという話を聞いたことがあります。


ということを考えながら、好きな曲のユーチューブを聴いてみました(上から3番目が有名な曲ですが、指揮者がスヴェトラノフなので4番目が上手な気がします)↓












曲を聴いていて、弾いているつもりになって、夢中で楽しんで集中している自分に気がつきました。

なんとなく、起業した会社も、これと同じように大切に扱わなくてはいけないという気がしました。