2013年1月28日月曜日

不都合な真実:平和について考えたこと

「均等の力を持つものの間にのみ平和は永続する。」(ウッドロー・ウィルソン。1917年の大統領教書。)

「核戦争は1億人の死、あるいは10億人の死を意味するものではない。40億人の消滅を意味する:ご存知のとおり、地球上の生命の終焉である」(ラジブ・ガンディー。1988年の国連総会にて)




人類が、リスクを限りなく0に近くできると過信し、幾度となく過ちを犯してきたことは、歴史が示すところである。サブ・プライムローン・原子力発電所事故は、その一例に過ぎない。これらの過ちから、一つの命題を学ぶことが出来るとすれば、それは、「リスクを0にすることは出来ない」ということであろう。

もし、リスクを0にすることが出来ないとすれば、リスクが顕在化した場合の最悪の結果を、なるべく限定されたものとする必要がある。ここに、不都合な真実がある。


(1) 技術力の向上
冷戦下で、核兵器は抑止力として作用した。抑止力を高めるため、核兵器の開発が進み、次々と高性能の核兵器が生まれた。一国を滅ぼす兵器の出現で、「全面戦争」のリスクが下がり、実際に「全面戦争」は抑止された。しかし、他方で、人類を滅ぼすだけの威力をもった核兵器の出現という負の遺産を冷戦後に残すことになった。(参考書籍として:Henry Kissinger, Nuclear Weapons and Foreign Policy)。

(2) 社会の変化 
冷戦後の今日、核兵器の抑止力としての機能は、ますます低下する傾向にあると考えられる。例えば、歴史を振り返ってみると、独裁者が支配する社会においては、独裁者は自己の利益を追求し、被支配者の幸福を追求しないのが、一般である。したがって、独裁者が核兵器を入手した場合、独裁者は自己のシェルターをつくることで自分だけ生き残れると考えた場合、核による反撃が想定されたとしても、核兵器を使用するという選択肢があることになる(ただし、被爆国が、自己のシェルターに攻めて来れないだけのパワーバランスを実現できる場合に限ると思われる。しかし、これは、「核による抑止」ではないことに注意する必要がある)。命を惜しまないテロリストにとっても、核兵器を使用しないという強い動機は働かないと思われる。


一般論として、技術力の向上や社会構造の変化が、ストラテジック・インフレクションポイントを作り出し、戦略の転換を求めることは、このブログで何度も述べた。

このようなストラテジック・インフレクションポイントに気がつき、ジョージ・シュルツ元国務長官、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官らによって、
A World Free of Nuclear Weapon
という論文が、スタンフォード大学のフーバー研究所から、2007年に発表された。核兵器を抑止力として使用して平和を維持する時代は終焉したから、核兵器のない世界を目指すべきであるという趣旨を述べた論文である。

これを受けて、オバマ大統領は、核兵器のない世界を目指すことを表明し、駐日米大使のルース大使も、核兵器のない世界を目指すと何度も演説をしている。上記の論文を読むと、この演説は、単にオバマやルースの理想論を述べたものではなく、アメリカ政府の戦略を述べたものであると考えられる。

アメリカの戦略は、成功するのだろうか。シュルツによる上記論文は、核兵器のない世界を実現するために、以下の方法を述べている。

  • Changing the Cold War posture of deployed nuclear weapons to increase warning time and thereby reduce the danger of an accidental or unauthorized use of a nuclear weapon.
  • Continuing to reduce substantially the size of nuclear forces in all states that possess them.
  • Eliminating short-range nuclear weapons designed to be forward-deployed.
  • Initiating a bipartisan process with the Senate, including understandings to increase confidence and provide for periodic review, to achieve ratification of the Comprehensive Test Ban Treaty, taking advantage of recent technical advances and working to secure ratification by other key states.
  • Providing the highest possible standards of security for all stocks of weapons, weapons-usable plutonium, and highly enriched uranium everywhere in the world.
  • Getting control of the uranium enrichment process, combined with the guarantee that uranium for nuclear power reactors could be obtained at a reasonable price, first from the Nuclear Suppliers Group and then from the International Atomic Energy Agency (IAEA) or other controlled international reserves. It will also be necessary to deal with proliferation issues presented by spent fuel from reactors producing electricity.
  • Halting the production of fissile material for weapons globally, phasing out the use of highly enriched uranium in civil commerce, and removing weapons-usable uranium from research facilities around the world and rendering the materials safe.
  • Redoubling our efforts to resolve regional confrontations and conflicts that give rise to new nuclear powers. Achieving the goal of a world free of nuclear weapons will also require effective measures to impede or counter any nuclear-related conduct that is potentially threatening to the security of any state or peoples.



PODAMのコードネームをもち、CIAへの協力者だったとも言われる正力が、原子力発電所を、日本に輸入したのは、実は、濃縮ウランやプルトニウムを手にすることを通じて、原子力爆弾を製造する能力を手に入れたかったためである、という有力な説がある。実際、原子力発電のために、ウランは濃縮されており、また、原子炉ではプルトニウムが生成される。スタンフォード大学で、中東駐在の米大使の講演を聴いていたときにも、大使は、「日本は、指をパチンとならす間に原子爆弾を製造できる」と平然と話していた。(参考図書として、例えばCIAの研究等で著名な早稲田大学の有馬哲夫教授による、原発と原爆 「日・米・英」核武装の暗闘 (文春新書)

核兵器がない世界を実現するためには、このようなプルトニウムや高濃度ウラン、またはこれらを製造する技術(ウラン濃縮技術等)を、潜在的な核の使用者に渡さないことが重要となる米国の3月11日以降の関心事も、日本のプルトニウムが他国に渡ることのリスクにあると思われる(以上の参考図書として、プルトニウムファイル いま明かされる放射能人体実験の全貌

プルトニウム等を危険な者に渡さないことの、一つの方法として、CIAやMI6による活動が考えられる(従来型の方法)。
新しい技術を利用した、新しい抑止の方法として、民間による抑止というのは、どうだろうか。例えば、シリコンバレーには、超安価で小型の人工衛星を打ち上げる会社(ビノド・コスラが出資したスタンフォードの学生の会社)や放射線を探知するセンサーといった技術などがある。プルトニウムや高濃度ウランの存在場所の探知につながるかもしれない。技術として大変難しいのだろうが、もし、一度、遠くからの探知が可能になれば、Twitterのように情報をすぐに共有できる仕組みはある。

思想の輸出や豊かな生活の輸出ということもある。新しい技術との関係では、アラブの春にみられるように、フェースブックや、Twitterが、革命を促し、政権を打破することがある(参考:Revolution 2.0: The Power of the People Is Greater Than the People in Power; a Memoir)

新しい時代における平和に向け、日本は、福島のために貢献し、事故で生じた核廃棄物を安全に隔離し、その過程で、世界に対して模範とリーダーシップを示し、核兵器のない世界の実現に向けた第一歩を踏み出すべきである。既に存在してしまったプルトニウムも、例えば、ガラス固化すれば、二度と核兵器としては利用できないだろう。日本は、意思さえあれば、そのリーダーシップを世界に示すことが出来るのである。

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